米国型給与カーブを使用したキャッシュフロー作成のすすめ

バブル崩壊以降年功序列型の給与システムが見直され能力主義型に変わってきていると言われることが多い。これは、バブル崩壊の後遺症といった国内要因のみならず、情報技術の進歩等によるグローバリズムの急激な進展や国際競争の激化などが影響していると考えられる。 このような状況においては、家計のキャッシュフローを作成する際に現時点の日本の給与カーブをもとに将来の給与収入を予測するだけでなく、より競争主義、市場主義が強い米国の給与カーブを使用して将来の給与収入を予測することが必要になってくると考えられる。本稿では、日本型に加えて米国型の給与カーブを使用したキャッシュフローを作成することが家計の安定性を高める上で大変必要であることを具体例を用いて示す。

 

給与カーブの検証

最初に、最近の給与カーブにはどのような傾向があるかを検証する。図表1は、日本型の給与カーブの2000年、2003年、2006年の結果 、米国型の給与カーブの2006年の結果を重ねて表示したものである。ここで、給与カーブの作成には、日本型については厚生労働省が発表している賃金構造基本統計、米国型についてはU.S. Department of Laborが発表しているCurrent Population Surveyを使用した。また、日本型の給与カーブの2000年、2003年の結果については消費者物価指数(生鮮食品を除く)を用いて金額の調整を加えている。さらに、米国型の給与カーブについては、25歳時点の金額が日本型と一致するように便宜的に表示しているため、その金額の大小は重要ではなく、給与カーブの傾きが重要であることに留意が必要である。

図表1を見て分かることは、30代以下の給与カーブの勾配が緩やかになり、徐々に米国型の給与カーブに接近する傾向にあることである。年功序列型の給与システムが見直され能力主義型に変わってきていると言われるが、確かにその傾向が30代以下の世代の給与収入に表れていることが分かる。ところで、40代前半の給与が若干増加傾向にあるが、名目の金額にはそれほど変化はなく、デフレの分だけ実質給与が上昇したようである。

図表1 給与カーブの比較

 

具体例

次に、具体的に年齢30歳で現在の給与収入が420万円(年末を基準)のケースについて日本型給与カーブと米国型給与カーブで今後30年間の給与収入がどのようになるかを示したのが図表2である。ここで、今年の物価上昇率は0%、来年は0.5%、再来年は1.0%、それ以降は1.5%とし、この物価上昇率に相当する分が1年遅れで無条件に給与収入に反映されるとして、同時に給与カーブによる調整を加えることで将来の給与収入を計算している。また、差額は米国型給与カーブで計算された金額から日本型給与カーブで計算された金額を引いたものである。

図表2 年齢30歳で現在の給与収入が420万円の場合の今後30年間の給与収入の推移(単位:万円)

図表2から分かるように、米国型の場合、ちょうど子育てと重なる40代から50代前半までの時期に100万円前後給与収入が少ないことが分かる。また、合計額で比較すると2,000万円近く米国型の方が給与収入が少ない。これだけ将来の給与収入に差があることからしても、日本型の給与カーブと共に米国型の給与カーブを使用したキャッシュフローを作成しておくことが重要であることが分かる。

 

おわりに

将来の給与収入が完全に米国型となっていくかという点については、文化的、慣習的な違いなどによって、必ずしもそうとも言えないかもしれない。例えば、言葉一つとっても敬語があるように序列的な側面は残っていくだろう。また、製造業などにおいては年功的な給与自体が生産性を反映したものと考えれられる場合もある。 ただし、産業の情報化やグローバル化、多額の公的債務で競争主義的な政策となりやすいことなどを考えると長期的には米国型の給与体系に徐々に接近する可能性があり、日本型に加えて米国型の給与カーブを使用した分析を行うことが家計の破綻回避において大変有効であると考えられる。

 

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