投資開始の判断におけるキャッシュフロー作成の重要性

株式等への投資は、企業等が生み出す付加価値の一部を資金的なリスクを負うことで獲得していく行為である。また、投資を行うことで預金金利を上回るリターンを期待的に目指すことが可能となる。ここで、個人がリスクの高い資産をどの程度保有できるかは個人がどれだけ価格変動等のリスクを許容できるかによるが、筆者は、個人が投資を開始するかの判断にはキャッシュフローの作成が大変重要であり、将来に渡って常に資金残高 がプラスになる場合に限り、投資を検討するべきであると考える。

詳細はツールを用いた具体例で示すが、将来予想される資金残高が一時期でもマイナスの状態で投資を行うということは、将来の家計の状況をさらに深刻化させるリスクを負うことを意味している。キャッシュフローを作成してみると大学2年生までの資金はあるが、3年生、4年生の資金が足りないから株式等のリスク資産に投資をするとする。これは、運用に成功すれば大学を卒業できるが、最悪、大学に入学もできなくなることを意味する。すなわち、子供の教育は投資の結果次第ということになるのである。このような場合、まずは、収入を増やすか、支出を減らすかを検討するのが正しい行動だろう。

 

具体例

具体例では、投資は控えるべき家計の例として、子供の教育費が増える大学生の時期に資金残高が最大でマイナス200万円(図表1)となるモデル世帯を設定した(細かい家族情報等は省略する)。

図表1 資金残高の推移

 

次に、このモデル世帯が、各年の初めに資金残高の一定の比率だけ投資した場合について、インベストメントスキャニングを使って分析を行ったのが図表2である。

図表2 分析結果

 

図表2の1列目が毎年初めの資金残高のリスク資産への投資比率1を表し、10%から50%まで10%ずつ増やして分析を行っている。2列目は期待超過収益額というものを計算しており、キャッシュフロー最終年の資金残高の投資による期待的な増加額を表す。3列目は、将来の支出を予定通り行えなくなる可能性を表す破綻確率を計算しており、モデル世帯の場合、全ての投資比率で50%を超えている。4列目は将来に渡っての資金残高の最小額について95%バリューアットリスクというものを計算しており、将来5%の確率で資金残高の最小額がこの金額以下になる可能性があることを表している。

これらがまず示すのは、実は、モデル世帯のように将来資金残高のマイナスが予想される家計は、期待超過収益額の増加(図表2の2列目)や破綻確率の減少(図表2の3列目)を見込んで投資に走る誘引があることを表している。この理屈は企業の経営者や株主にも当てはまることであり、破綻が予想される時には、逆にリスクをとる行動に走りやすいことを正当化するものである。

それでは、家計の破綻が予想される場合は積極的に投資を行うのが妥当な選択なのか。実は、最も重要なのは図表2の4行目の資金残高最小額の95%バリューアットリスクである。モデル世帯の場合、この値は全てマイナスの金額であり、投資比率を増やすに従って絶対値が増加している。これは、簡単に言うと投資比率を上げるに従って家計が破綻した時の深刻度が高まっていくことを表している。さらに、このマイナス分を高金利の借り入れで補うとすると、事態はより深刻化することになる。すなわち、投資による収益で家計を破綻から防ぐという期待のための代償として、将来事態をさらに悪化させるリスクを負うことになるのである。企業の場合は、株主は出資金を失うだけですむが、家計の場合は子供の教育費がなくなったではすまない。従って、投資を始める前にキャッシュフローを作成し、資金残高のマイナスが予想される家計は、まず、収入を増やす、または、支出を減らすことを考えるのが妥当である2

 

おわりに

企業への投資が公に開かれる中で、個人が企業の生産活動に資金面から参加していくことは、単に投資により高いリターンを目指すのみならず、長期の安定株主としての役割を果たしたり、また、企業のコンプライアンス遵守や効率的な経営のチェック機能を果たすという意味でも、大変重要なことである。ただし、個人の投資活動は家計が破綻をしないことが前提であり、投資リスクを抱えるのは、現在のみならず将来も含めた資金に余裕があるときである考えられる。

 

注1) ただし、年初の資金残高がマイナスとなる場合は投資は行わない。
注2) ここでは、リスク資産の期待運用利回りが、リスク資産を含まない場合の運用利回り(ここでは物価上昇率を使用)を基準にして超過リターンが3%である場合の例を示している。この超過リターンが10%というように極端に大きい場合は結論が逆になる可能性もあるが、通常はそのような超過リターンが継続して得られる状況はありえないため、上記のような考え方は妥当であるとした。

 

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