機械学習を用いてIPOの初値騰落率を予測する

機械学習を用いてIPOの初値騰落率を予測しよう。
筆者は、2012年から、AIの一種である機械学習を組み込んだ予測モデルを用いて、初値騰落率の予測情報を公開している。この予測モデルは、新規上場時に得られる6つの基本的な情報(以下で説明)だけを用いて、初値騰落率を予測するものである。公開してから既に4年を経過し、一定の予測力を継続して示していることから、ここでは、予測モデルの開発に至った経緯とその基本的な考え方について、簡単な説明を加えることにする。
予測サイト ⇒ 機械学習によるIPO初値騰落率予測

予測モデルの開発経緯

もし、市場にアノマリーが存在しなければ、株式の公開価格と初値は一致するはずである。なぜなら、これらは共に企業の財務や成長性などのファンダメンタルな情報をベースにして決定されているはずだからだ。しかし、実際の初値は、公開価格より平均的に高くなる傾向がある。投資家、新規上場企業、幹事証券会社の誰かがミスプライスしているのだ。
そこで、新規上場時に得られる基本的な情報(市場からの調達額=公開株数×公開価格、上場する市場、業種、主幹事など)を用いて、初値騰落率のクロス集計を行ってみた。そうすると、カテゴリー間で初値騰落率に有意な差異があることが確認できたのである。IPOの初値騰落率はこれらの基本的な情報だけでもある程度説明できるのではないか。これが、機械学習を用いた予測モデルを開発することになったきっかけである。(もともとは、予測モデルは、個人で初値投資をするために開発したものである。しかし、ブックビルディングに参加してもなかなか当選できなかったため、その予測値をネット上に公開することにした。)

予測モデルの基本的な考え方

予測モデルは、新規上場時に得られる基本的な情報を説明変数として、機械学習を用いて初値騰落率を予測するものである。

説明変数は、試行錯誤の上で、最終的に以下の6つとした。

1 市場からの調達額 公開価格×公開株数で計算する。
「市場からの調達額」が大きい(流通株式数が大きい)場合、初値を上昇させるためには相当数の初値投資家が必要となってくる。逆に、「市場からの調達額」が小さい場合、それほど多くの初値投資家がいなくても、ちょっとした熱狂で初値は上昇することになる。初値騰落率が「市場からの調達額」に反比例する傾向が得られたため、説明変数に加えることにした。
2 上場する市場 「上場する市場」は、「市場からの調達額」と相関が高い変数であるため、「市場からの調達額」の影響を除いて検証を行った。「市場からの調達額」の影響を控除した後でも、「上場する市場」は一定の説明力を有したことから、説明変数に加えることにした。
カテゴリー:東証一部、東証マザーズ、東証JASDAQグロースなど
3 業種 初値投資では業種しか見ていない投資家も少なくないかもしれない。例えば、「情報・通信」というだけで、初値買いをする投資家もいるかもしれない。業種も一定の説明力を有したため説明変数に加えることにした。
カテゴリー:情報・通信、サービスなど33業種
4 主幹事 幹事証券会社が売れ残りリスクを嫌うなどの理由で、公開価格を低く設定する傾向があるかもしれない。時期によって、「主幹事」の違いが一定の説明力を有したことから説明変数に加えることにした。
カテゴリー:各主幹事証券会社
5 JASDAQインデックスのリターン 新興市場のセンティメントは初値騰落率の平均的な水準に大きな影響を与える。過去の一定期間の新興市場のリターンを説明変数として加えることにした。
6 公開価格 公開価格決定の時点で、仮条件の上限価格に達しなかった銘柄は、初値上昇の可能性は低いと考えられる。公開価格が仮条件の上限となったか、そうではなかったかを説明変数として加えることにした。
カテゴリー:仮条件の上限、又は、それ以外

予測値は、初値騰落率をA(+100%以上)、B(+30%以上+100%未満)、C(+30%未満)の3つのカテゴリーに分けて、初値騰落率がそれぞれのカテゴリーに属する可能性を確率(%)で表すことにした。

予測値の表示例

A B C
銘柄1 80% 15% 5%
銘柄2 1% 1% 98%

買付余力の制約はあるものの、一定以上のリターンが見込まれれば、投資家はブックビルディングに参加すると思われる。従って、投資家にとってはA、B、Cの区別があれば十分であろう。(以下の「ブックビルディング参加基準の例」を参照)

カテゴリー 初値騰落率 ブックビルディング参加基準の例
A +100%以上 積極的に参加する。
B +30%以上
+100%未満
参加する。
C +30%未満 参加に慎重になる。

予測対象の新規上場企業は、ブックビルディング開始日を経過したものである。ブックビルディング期間中は説明変数6の「公開価格」が決定していないため、この期間中は説明変数1~5のみで予測を行った(「市場からの調達額」は暫定的に仮条件上限価格×公開株数とした)。ブックビルディング期間中の予測を「事前予測」、公開価格決定後の予測を「確定予測」とした。
なお、企業の財務や成長性などのファンダメンタルな情報を説明変数に加えなくても予測力が得られるのは、これらの情報は概ね公開価格に織り込まれていると考えられるからである。

おわりに

以下の図は、予測モデル(および、そのベンチマーク)の各年の的中率の推移を示したものである。これによって、予測モデルを使用することで的中率が20%程度上がることが確認できる。(的中率、および、ベンチマークの考え方は「IPO予測値の検証」を参照)

重要なことは、予測モデルが予測力を示すこともさることながら、6つの説明変数が一定の説明力を有するということである。これらは新規上場時に簡単に得られる情報であり、また、理解するのはそんなに難しくない情報である。初値投資は、基本的な情報を吟味するだけでも、パフォーマンスの向上が期待できそうである。

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キャッシュフローは自律のための道具である

キャッシュフローは自律のための道具である。キャッシュフローは危機感を醸成し、行動を起こすきっかけを与えてくれる道具である。キャッシュフローは批判的な検証によって自律的な選択を促し、人生に対する姿勢を受動的なものから能動的なものへと変えてくれるだろう。

しかし、我が国においては、家計のキャッシュフローは、住宅ローンなどの金融商品に付随して、危機感というよりも、どちらかというと安心感を得るための道具として使用されることが多い。それは、対価を払ってまでキャッシュフローを作成するという文化がまだ根付いていないため、付加的なものとならざるを得ないからであろう。だからといって、危機感を醸成するために使用するのではなく、安心感(限定されたシナリオの下での安心感)を得るためだけに使用するのでは、キャッシュフローが本来持っている能力を十分に生かし切っているとは言えない。

我が国の経済状況は、政府の近視眼的な政策に依存し続けたがために自生的な成長力が低下した状態だといえる。従って、個人は将来の資金計画に対して慎重にならざるを得ない。しかし、そのような状況にも関わらず、金融商品の購入のために作成されたキャッシュフローは、企業の利益のために、家計に負担をかけやすいものとなる傾向は避けられない。企業の利益追求自体が問題なのではない。なぜなら、それは経済発展のために不可欠な要素だからである。むしろ問題なのは、情報を受け取る個人の側が、与えられた情報を批判的に検証することなく、そのまま鵜呑みにしてしまうことである。

 

批判的に検証し、自律的な選択をする

もともと自律とは、他者や衝動に支配されることなく、自分で定めた規範に従って自己決定をするといった意味である。この考え方を参考にしながら、本稿においては、自律とは、物事を批判的に検証して、自分を律して選択をしていくこととする。

毎日は選択の連続であり、選択の連鎖が将来を形作っていく。この連鎖において、自律的な選択とは、意識的に将来の結果に大きな変化を作り出すことである。従って、自律的な選択には、必ず道は開けるという信念と同時に、将来の結果に対しての責任が伴うことになる。

批判的な検証とは、ただ単に批判することではない。それは、得られた情報が、本当に正しい情報なのか、本当に有用な情報なのかを疑ってみることである。例えば、常識を疑ってみる場合、それが原理原則にかなったものなのか、あるいは、風土などの自然的なものから生まれたものなのか、それとも、一部の人や組織の都合によって恣意的に作り出されたものなのか、といった判断を行うのである。そして、その結果として、たいていの場合は危機感が生み出されることになり、最終的に、この危機感こそが行動を起こすための原動力へとつながっていくのである。

批判的に検証することに関連して、「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉がある。これは、二つの捉え方があるだろう。一つ目は、悪い道に陥れようとする悪人が、それを隠すためにわざと善人を装っている、という意味である。これはある意味分かりやすい。なぜなら、善人を装うのがあくまでも悪意を持った悪人であるから、そのことが判明した時点で、悪の行為をやめさせるか、距離を置くことができるからである。厄介なのは二つ目の場合である。それは、自分を善人だと信じている人が、他人を悪い方向に(多くの場合は強引に)導いてしまうことである。このことは、善意を持った人が必ずしも正しい人であるとは限らないことを表している。この場合は大変厄介である。なぜなら、その行為をやめさせるのは難しいし、距離を置くのも容易でない場合が多いからである。実は、善意をもって悪い結果へと導いてしまう行為や慣習は、世の中には少なからず存在するものだ。だからこそ、自律的な選択のためには批判的な検証が不可欠なのである。

 

まずは、支出の把握から始める

将来予定される支出を把握するだけでも、キャッシュフローは十分に効果を発揮する。なぜなら、それが一つの目標となり、行動を起こすきっかけを生むからである。そして、毎年の支出を凌ぐために、家族一丸となって稼ごうという意欲につながっていくだろう。

通常の家計のキャッシュフローは、支出のみならず収入も予測して、将来に渡っての手元の資金が枯渇しないかを把握していく。しかし、収入の予測はなかなか難しい。収入が安定している人はごく僅かで、普通の企業に勤めている人は、給与の減額もあれば、ボーナスがないこともある。さらに、転職することや会社が倒産することもありうるだろう。このように考えると、将来の収入を予測するのは、実は難しいことなのである。

たから、キャッシュフローの把握は、まずは、支出から始めるのがよいだろう。それだけでも十分に効果を発揮するのだ。例えば、ある年に収入が支出を上回って、余剰資金が生まれたとする。そうすると、ちょっと無駄遣いをしたい誘惑に駆られるかもしれない。贅沢品を買ってしまうかもしれないし、遊技場に出向いてしまうかもしれない。しかし、将来の支出を把握していれば、子供の教育費が増える時期などが明確になるため、無駄な出費を控えるようになるだろう。

 

おわりに

キャッシュフローを作成する目的を、安心感を得るためだけではなく、危機感という行動を起こすための原動力を得るための道具として捉え直す必要がある。このことは、人生に対する姿勢を、受動的なものから能動的なものへと変えてくれるだろう。

「みんなと同じだから大丈夫。みんながやっていることと違うことをするのは嫌な感じだ」といった社会主義的な思考が今後も通用するようには思えない。なぜなら、昨今の我が国の経済の停滞は、長年の社会主義的な政策が、自律した個人を育ててこなかった結果でもあるからだ。従って、今後の我が国の健全な発展のためには、批判的に物事を検証して自律的な選択を行うという態度が不可欠となっていくだろう。そして、キャッシュフローの作成はその手始めになるに違いない。

 

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プレミアム商品券 国民を経済活動の駒として捉えていないか?

プレミアム商品券と聞いて、何か釈然としない気分になるのは筆者だけだろうか。プレミアム商品券には多くの方がさまざまな期待を込めて携わっているだろうから、やみくもに批判するのはよくないだろう。ただ、どうしても素直に受け入れる気分にはなれないのだ。

自治体のうち、何件かは成功事例が出てくるかもしれない。ただ、普通に考えて次のような疑問が湧いてくる。使い道が限定されていてそもそも得なのか(例えば、大店舗は徹底した合理化、効率化によって価格優位性を実現しているのだから、中小店舗で購入して得なのか)、需要の先食いではないか(終了後に消費の反動減があるのではないか)、事務に関わる一部の関係者だけが潤うのではないか(その結果として国民負担が増えるのではないか)、政府の借金を増やすだけではないか(子孫の未来を食いつぶすだけではないか)などだ。

ただ、筆者をすっきりしない気分にさせる一番の理由はこれらではない。その理由とは、国民を特定の消費へと誘導していくという発想がこの制度の根幹にあることだ。国民を経済活動の主体としてではなく、経済活動の駒として捉えているのだ。国民の選択に頼っていては、地方の生み出す商品やサービスに正当な評価が向けられることは期待できない、だから、計画的に誘導していこうというのだ。もし、国民の消費判断を信頼しているのであれば、税金を集めてこういう形で分配するのではなく、初めからその分は減税すべきだろう。

制度の趣旨は地方再生であり、その前提にあるのは、中小企業の再生である。今回の制度は中小企業に一時的な利益をもたらすかもしれない。しかし、これらに従事する人たちは、プレミアム商品券のもとで売上が伸びたとして、心の底からうれしいのだろうか。起業家的な人たちにとっては、むしろ、ありがた迷惑ではないか。プレミアム商品券が、事業者の信念を鈍らせたり、売上の変動が事業計画を狂わせたりして、長期的には中小企業を破壊していくことに繋がりはしないか

極論を述べると、自分が駒として使われていると気付かない人がプレミアム商品券を使用した場合は経済効果が生まれるだろうが、自分が駒として扱われていると認識している人たちが使用してもほとんど効果は生まないだろう。(自分が駒として扱われていると割り切って)プレミアム商品券を上手に使いこなした人と一部の事務関係者だけが潤って、その負担を子供、孫の世代全体に先送りすることになるのではないか

政府は経済を立て直そうと必死だ。ただ、少しポイントがずれていないか。問題は、公正な競争を歪めたり、個人の創意を失わせたりするような前近代的な慣習が社会の至るところに残っていることだろう。そういうものを地道に取り払い、個人や中小企業でも事業がしやすい市場を整えれば、多才な人材に恵まれた我が国においては、経済の復活はそう難しいことではないように思える。

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離婚後の家計のキャッシュフローを描いてみる

離婚後の家計のキャッシュフローを描いてみよう。

離婚するかしないかは、個人の問題である。離婚を決断するからには、余程の理由があるだろう。従って、筆者が、離婚の良し悪しに口をはさむことは余計なお世話でしかない。

しかし、最近の、離婚がごく普通のことであるように語られたり、離婚を減らすための議論を抜きにして生活支援の話をしたりする論調にふれると、どうしても違和感を感じてしまう。また、そこには、意識的、無意識的を問わず、(主に左派的な思考の人の)良からぬ意図が潜んでいるように感じるのは気のせいだろうか。従って、今回は、世間の空気に流されやすい人が離婚一色に染まった頭の中を一度リセットして冷静になるきっかけになればという意図を込めて、離婚後に生活が苦しくなってしまうケースを設定して離婚後のキャッシュフローを作成してみることにしよう。

 

■ キャッシュフローを描いてみる

夫と離婚後に妻が子供2人を引き取って一人親家庭(母子家庭)となる場合の家計のキャッシュフロー(将来、お金が足りなくなってしまう時期がないか)を描いてみることにする。

まずは、モデル世帯を設定して離婚しない場合のキャッシュフローを作成する。モデル世帯の概要は以下の通りである。

家族構成は、夫、妻、子供2人。2015年度末の時点で夫と妻は35歳、第一子は7歳、第二子は4歳。第二子が小学校に入る2018年度に3000万円の住宅を購入予定。継続的に発生する支出(1年分)は、基本生活費120万円、娯楽費36万円、保険料24万円、家賃120万円(住宅購入の前年度まで)、住宅諸経費48万円(住宅購入後)、その他支出24万円。2人の子供の教育は幼稚園から大学まで全て公立(仕送りなし)。夫の年収は400万円、妻の年収は現在60万円だが、第二子が小学生になり住宅を購入する2018年度からは家事と両立できる範囲で働きに出て年収180万円。2015年度初めの手元資金(資金残高)は500万円。(詳細については注を参照)

 

図表1は離婚しない場合のモデル世帯の手元資金(資金残高)の推移である。離婚しない場合は、住宅を購入する2018年度と、2人の子供の大学が重なる2030年度に手元資金がそれぞれ23万円、35万円まで少なくなる。しかし、離婚しない場合は、手元資金はぎりぎりプラスを維持することが可能である。

図表1 離婚しない場合の手元資金(資金残高)の推移

 

次に、2016年度の初めに離婚が成立するとして、離婚した場合のキャッシュフローを作成してみよう。離婚後のキャッシュフローの条件の概要は以下の通りである。

離婚後はすぐに働きに出るとして、家事と両立できるぎりぎり範囲で年収は200万円(離婚しない場合より20万円多い)とする。離婚後は、まず、夫がいなくなった分だけ、基本生活費が25%減る。また、離婚後は贅沢ができないので娯楽費は大幅に50%削る。住宅は、離婚前は将来住宅を購入する予定であったが、離婚後は賃貸を継続して、離婚前より20%安い住宅に引っ越す。その他支出は母子家庭に対する助成や減免等があることを勘案して50%減るとする。離婚後の一時的な支出としては、引越し等の費用として50万円、また、第二子を保育園に預けることになるため、離婚後2年間は18万円の保育料がかかるとする。一方、離婚後の一時的な収入として、離婚から1年後に慰謝料100万円を受け取るとする。また、それぞれの子供が20歳に達する年まで、元夫からそれぞれの子供に対して養育費を48万円ずつ受け取ることとする。政府からの手当については、自治体によって差異があるので、今回は児童扶養手当のみを受け取ることとする。離婚当初の児童扶養手当の受け取り額は年35万円。(詳細については注を参照)

 

まず、離婚後の支出と収入を表したのが図表2である。棒グラフが支出を、背面の面グラフが収入を表す。また、面グラフは3段に分かれて、上から1段目が児童扶養手当(橙色)、2段目が養育費(水色)を表している。図表2から分かることは、養育費と児童扶養手当の助けがあって2023年度までは収入と支出のバランスはだいたい取れているが、2024年度から悪化し、第一子が大学に行く2027年度からは支出が収入を大幅に上回るということである。

図表2 離婚した場合の収入と支出の推移

 

図表3は、離婚した場合の手元資金(資金残高)の推移を表したものである。(棒グラフが離婚した場合を、線グラフは離婚しない場合を表している。)手元資金は、離婚後11年間はプラスを維持しているが、第一子が大学に入る2027年度にマイナスに転じ、最終的に最大で1,400万円程度の資金不足に陥ることになる。この金額は子供2人の大学資金に相当する金額である。この資金不足を解消するために、大学に通う時期に、奨学金をもらいながら子供達にアルバイトをしてもらう、あるいは、子供達の大学への進学を諦めるといった選択が迫られることになるだろう。

今回のキャッシュフローでは、初めのうちは資金に余裕があるように見えるが、途中から資金不足が急激に増加していく。当初の10年ぐらいだけを見て甘い見積りで離婚した結果、その後の家計が大幅に悪化してしまったというケースを表しているとも言えるだろう。

図表3 離婚した場合の手元資金(資金残高)の推移

 

ここで補足であるが、この離婚後のキャッシュフローは確定したものではなく、さまざまなリスクが伴うことに留意する必要がある。一般的には、給与が減らされるリスク、物価上昇リスクなどがあげられるが、離婚、特に今回のキャッシュフローにおいて、まず、注目しなければならないのは養育費を受け取れなくなるリスクだろう。図表2でも分かるように、離婚後の収入に占める養育費の割合は大きい。従って、元夫の家計の悪化などで、元夫からの養育費の受け取りが遅延(あるいは停止)した場合は、離婚後の家計に与えるダメージはたいへん大きい

また、案外見落としがちなのが政府からの手当が減額されてしまうリスクだろう。社会保障費の増加などに伴って、今後も政府債務の増加が予想される。このような状況の中で、社会保障費の削減の一環として、児童扶養手当が減額されるリスクは無視できないものとなってくる可能性がある

 

■ おわりに

今回は、離婚後に生活が苦しくなってしまう一人親家庭のケースの家計のキャッシュフローを作成した。このキャッシュフローが、現在離婚を考えている人が離婚を一旦踏みとどまって、一度冷静になるきっかけとなれば幸いである。

 

注)モデル世帯の詳細やキャッシュフローの計算結果、キャッシュフロー作成にあたっての前提事項や留意事項は、本コラムのために作成した以下の「離婚シミュレーション」のキャッシュフローレポートを参照のこと。 Column_20150819_1.pdf (39ページ、1.16MB)

 

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家計の破綻を防ぐには キーワードは変幻自在

これから述べることは、ごく当たり前のことではあるが、案外、おろそかになってしまいがちなことである。今回は、家計のメカニズムについて簡単に触れて、家計の破綻を防ぐには、家計が「変幻自在」であることが重要であることを示す。

図表1、図表2は家計のメカニズムを簡単にイメージできるように示したものだ (ここで、収入は税金、社会保険料を除いた実際に使用できる部分である可処分所得、支出は消費税なども含んだものと考えて欲しい)。

図表1は収入も支出も大きく変動しているが、常に収入が支出を上回っている。この場合、家計が破綻することはない。なぜなら、収入が減少してもそれに応じて支出を減らしているため、家計の破綻は起こりえないからだ。

しかし、通常は最低限必要な固定的な支出があるため、図表2のように収入が減ったからといって支出はそれほど減少せず、支出の下げ幅には限界があるものだ。図表2で支出が収入を上回っている部分では手元の資金を食いつぶしながら生活をしていることになる。そして、万が一手元の資金がなくなると家計が破綻してしまう。

図表1 収入と支出の関係(収入が支出を常に上回る)

図表2 収入と支出の関係(収入が支出を下回る時期あり)

 

次に、図表3は高度成長時代の会社員の収入と支出を表したものだ。子供の教育費などの増加で年齢と共に支出は増えるが、年功序列、終身雇用により収入も安定して増加する。これは、支出の増加に合わせて収入も増えるので、家計が安定していることを表している。ただし、年功序列、終身雇用という慣習は、今となってみれば給与の後払い的な側面がないとも言えず、高度成長が前提と考えられるため、今後はこのような収入のパターンはあまり期待できないだろう。

戦後の混乱は想像を絶するものだったろうし、その後の成長によって現在の豊かさ(他の国と比較しての相対的な豊かさ)が享受できているのは事実である。しかし、言い過ぎかもしれないが、戦後の社会システムには、悪意はなかったにせよ、安易に元本保証、高配当をうたって、後から入った人の出資金を原資にして配当を続けて、拡大が止まった瞬間に破綻してしまう仕組みに酷似したものが少なくないようにも思える。

図表3 収入と支出の関係(高度成長時代)

 

図表4は成功者と言われる人でも破綻してしまうことがある場合の例を示したものだ。 初めのうちは収入が勢いよく伸びていく。このときは、気前もよくなり、また、価値を与えたり受けたりというエンジンがフル稼働した状態なので、支出も増えることが多いようだ。しかし、ずっと成功が維持できない場合、収入は普通の水準へ戻っていく。

一方、一旦生活水準を上げてしまうと元に戻すのは難しいと言われるように、収入が下がってきても、過去の支出を継続してしまうことが少なくないようだ。例えば、高額なローンを組んだ場合はそうであろうし、また、世間体がどうしても気になってしまって生活水準を下げられない場合もあるかもしれない。結果的に支出が収入を大きく上回る時期が続いてしまうと、成功者と言われる人でも家計が破綻してしまうことがあるのだ。

図表4 収入と支出の関係(成功者でも破綻してしまう場合)

 

強靭な家計を築くには、柔軟さ、慎重さ、時には勇気、そして、他人の評価に振り回されない信念が必要なのだろう。人生いいときも悪いときもあるが、人生が修復不可能なほどにうまくいかなくなってしまうのは、実は、調子がいいときにまいた種が原因である場合が多い。あたりまえのことと言えばあたりまえなのだが、家計の破綻を防ぐには、常に「変幻自在」であることを意識しておくのがよいだろう。

 

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支出の把握のみでも家計のキャッシュフローは十分効果を発揮する

「将来のキャッシュフローの予測は当てにならない」、「家計のキャッシュフローは机上での話」。これらの指摘はある意味当たっている。長年、家計のキャッシュフロー(将来の収入と支出、そして、これらから得られる将来に渡っての手元資金の推移)を描き続けてきた筆者も、同じような感覚を持ったことがある。

実は、これらの指摘は、将来に渡って安定して収入を得ていくことは大変困難だという事実に端を発している。収入が安定している人はごく僅かで、普通の企業に勤めている人は、給与の減額もあれば、ボーナスがないこともある。さらに、転職することや会社が倒産することもありうるだろう。

それでは、キャッシュフローは役に立たないのか。キャッシュフローは単なる絵に描いた餅でしかないのか。実は、支出の方に目を向けるとそうとも言えないのだ。支出はある程度予測がしやすい。さらに、重要なことは、支出を実現するために収入を得ているということである。要するに、支出が目的であり収入は手段だということだ。

支出が目的であるから、将来予定される支出のキャッシュフローを把握するだけでも、十分に効果を発揮することになる。なぜなら、それが一つの目標となり、行動を起こすきっかけを生むからである。そして、毎年の支出を凌ぐために、家族一丸となって稼ぐことにつながっていくだろう。

まずは、支出のキャッシュフローを作成してみてはどうだろうか。それが、危機感を醸成し、行動を起こすための原動力を生み出してくれるだろう。支出のキャッシュフローは、人生をより積極的なものに変えてくれるに違いない。

 

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財政危機が発生した場合、家計はどのような影響を受けるのか

政府の財政危機はどのようにして発生するのか。筆者は、財政に対する懸念が高まっていくなかで、金利の上昇を許容せざるを得ない状況まで円安が加速度的に進んだ場合に、強いインフレと同時に財政危機が発生すると予想している。日銀が国債を無制限に買い取れば金利の上昇は抑えられるだろうが、それは同時に円安をもたらすものでもある。従って、円安が加速度的に進む状況では、財政ファイナンスは抑制せざるを得なくなり、金利が上昇して(さらに金利のボラティリティも高まって)財政危機が訪れるだろう。また、急激な円安を抑えるために、日銀が政策金利を上げざるを得ない状況がきっかけとなって財政危機が発生するかもしれない(金利上昇は短期金利の上昇が先行するかもしれない)。

このような状況では、財政危機に加えて、金融危機も同時に発生するだろう。銀行が国債を含む債券の含み損を抱えて貸出余力が低下するため企業の資金繰りが悪化し、企業の業績悪化や倒産が増えることになるのである。
このとき家計は、強いインフレと同時に賃金の下落の影響を被ることになる。また、このようなスタグフレーション的な状況のなかで増税も受け入れざるを得なくなる可能性もある

財政危機の根本的な原因は、再分配機能が拡大して政府が肥大化してきたことにあるだろう。従って、以下では、財政危機後のシナリオとして、増税なしに政府をスリム化することで財政危機を乗り切るシナリオ1(後述)と、肥大化した政府を維持したまま所得税と消費税への増税による国民への負担増でひとまず財政危機を脱するシナリオ2(後述)を用意した。そして、2016年度以降の25年間それぞれに対して財政危機シナリオを1年ずつずらしながら発生させて、家計にどのような影響を与えるかのシミュレーションを行った。

シミュレーションでは一つのモデル世帯を設定した。モデル世帯への財政危機の影響額を一つの目安として、スケール調整をすることで実際の世帯への影響額をつかんで欲しい。モデル世帯(後述)を簡単に述べると、2015年度の末の時点で夫32歳、妻30歳、第一子2才、2016年度に第二子を出産予定、夫の年収は500万円、妻は主婦だが第二子が小学生になる年から年収130万円、子供の教育は幼稚園から大学まで全て公立、3500万円の住宅購入(自己資金700万円)という世帯である。また、この世帯の資金残高(手元資金)は、財政危機が発生しない場合、将来に渡って常にプラスを維持するものの、妻が働き始める前と子供が大学に通う時期に少なくなり、ぎりぎりのところでプラスを維持した状態である。

このモデル世帯についてシナリオ1(財政構造改革断行、増税なし)の財政危機が発生した場合、次のような結論が得られた。

  1. 子育て期間中に財政危機が発生した場合、増税が行われないにもかかわらず、600万円から700万円程度の資金不足が発生する。資金不足は子供が大学に通う時期にピークを迎えるため、この時期にかけて、新たな収入源を確保しなければいけない。
  2. 資金不足の増加のスピードが速い時期は、妻が働き始めるまでの期間と子供が大学に通う期間である。これらの時期ではそれぞれ、危機発生から短期間(3年間)のうちに資金の不足額が200万円程度、300万円程度まで拡大する。また、子供が大学に通い始める直前に財政危機が発生した場合、5年間のうちに資金の不足額が500万円程度まで拡大する。

次に、シナリオ2(現状維持、増税あり)の財政危機が発生した場合、次のような結論が得られた。

  1. 財政危機が早まれば早まるほど増税の影響が強まり、最大で1,900万円程度の資金不足が発生する。資金不足は子供が大学に通う時期にピークを迎えるため、この時期にかけて、新たな収入源を確保しなければいけない。
  2. 資金不足の増加のスピードが速い時期は、妻が働き始めるまでの期間と子供が大学に通う期間である。これらの時期ではそれぞれ、危機発生から短期間(3年間)のうちに資金の不足額が300万円程度、400万円程度まで拡大する。また、子供が大学に通い始める直前に財政危機が発生した場合、5年間のうちに資金の不足額が750万円程度まで拡大する。

財政危機が発生した場合の家計への影響は想像以上に大きい。モデル世帯では、政府がスリム化に成功して増税しない場合でも最大700万円程度の資金不足が発生し、現状維持で増税によって危機を脱した場合は最大1,900万円程度もの資金不足が発生することになる。特に、増税を行った場合は、短期間(3年間)で400万円、また、5年間のうちに750万円もの資金不足が発生してしまう時期があるため、新たな収入源を確保する前に万策尽きてしまうことも起こり得るだろう。(詳細については、本稿の以下の「財政危機シナリオ」「モデル世帯」「シミュレーション結果」、および、キャッシュフローレポート「シナリオ1、17.3MB」「シナリオ2、17.6MB」を参照のこと)

なお、これらの結果は、マクロ的な意味でのインフレや賃金下落を反映したものであり、失業や会社の倒産といった個人的な要因は含まれていない。従って、これらの個人的な要因が重なった場合は、状況はより悪化することになる

家計への負担を最小限に抑えるためにも、増税による解決(シナリオ2)だけはどうしても避けなければならない。子育て世代への負担を軽減するためには、政府のスリム化は必要不可欠であろう。

 

■ 社会のあり方を見直す時期が来ている

財政危機は発生しないという論者は多数存在するし、そうだと願いたい。ただ、筆者は、政府の政策の良し悪しというよりも、むしろ、前世紀を通して政府が再分配機能を拡大し続けてきたことが本質的な問題だと考えている。今後、我が国では、大きな政府を維持できるだけの経済規模の拡大が期待できる状況とはいえない。また、社会主義的な空気が支配する環境では起業家精神やイノベーションは育ちにくいものである。従って、大幅な構造転換を行わない限り、我が国の財政は遅かれ早かれ行き詰ってしまうことは避けられない

社会主義的な制度がよいのか、それとも、個人により依存した制度が良いのか。それは、結果に対する責任を個人の置かれた環境に帰するのか、それとも、個人の選択に帰するのかに大きく依存している。確かにその責任の所在には両方の側面があることに異論はないが、あまりに前者に偏ってしまうと、自分は悪くない、悪いのは自分以外の周りが悪いのだという思考回路に陥ってしまう。そして、前向きに生きようという意欲を失い、他人の努力に対する敬意を忘れ、他人の自由に対して不寛容になっていく。それが、当事者意識のない批判のための批判を生み、些末なことでの揚げ足取りをもたらし、出る杭は打たれる空気を作り出し、究極的には進歩も発展もなく笑顔のない社会へと繋がっていくことになる。(ここで、行動するしないを含めた個人の選択行為の結果に対しては個人により依存するべきであろうが、個人の選択が及ばない要因による結果に対しては一定の配慮が必要であることを付け加えておく。)

今は安定的に見えるものでも、一旦バランスを失うと、もろく崩れ去ってしまうかもしれない。大事なのは、自分で何かを感じ取ることなのだろう。経済の動向に何か不自然さを感じたり、将来について不安を感じたりするようであれば、早い段階から準備を始めるのが良いであろう。最近の若い世代は貯蓄に励む人が増えているとも聞くが、これは、本能的に危険を察知しての準備行動なのかもしれない。

近い将来、国民は選択を迫られるだろう。社会主義的な制度を現状のまま残しておくのか、それとも、より個人の独立心に依存した社会を目指していくのか。社会のあり方を見直す時期が来ているのだろう。

 

■ 財政危機シナリオ

シミュレーションでは、2016年度以降の25年間それぞれに対して財政危機シナリオを1年ずつずらしながら発生させて、家計のキャッシュフローがどのように変化するかの分析を行った。このシミュレーションでは、財政危機は破局的な方向に向かうのではなく最終的には一定の収束に向かうことを想定してシナリオ1とシナリオ2を用意した。

シナリオ1(図表1)は、財政危機を増税なしに政府のスリム化で乗り切るケースを想定している。財政危機が発生したときは、その初年度にプラス10%、2年目にプラス5%の強いインフレが発生し、同時に初年度にマイナス5%、2年目にマイナス3%の給与の減少が起こる。その後は、政府の財政構造改革が成功し、急激な円安の反動から幾分か円高となり、4年目、5年目にマイナス2%、マイナス1%のデフレが発生し、一方、給与の水準は10年目にかけて物価の水準にある程度収束していく。

シナリオ2(図表2)は、肥大化した政府を維持したまま増税によってひとまず財政危機を脱するケースを想定している。財政危機が発生したときに、その初年度にプラス10%、2年目にプラス5%の強いインフレが発生し、初年度においてマイナス5%だけ給与が減少する。2年目になって、まずは負担できるところからということで所得税の増税が行われ、モデル世帯の場合は所得税率がプラス5%だけ上昇する。これでも財政危機は収束しないため、3年目に入って、消費税率をプラス5%だけ上げる(例えば、2017年度以降であれば、消費税率は10%+5%=15%となる)。また、消費税率を4年目から8年目まで1%ずつ小刻みに上げて8年目以降はプラス10%となる(消費税率は最大で10%+10%=20%となる)。給与は、増税の影響もあって、2年目、3年目も共にマイナス5%となる。その後は、増税の効果によって財政危機は落ち着きを取り戻し(消費税増税は2年目の時点で決定されるとする)、急激な円安の反動から幾分か円高となり、4年目、5年目にマイナス2%、マイナス1%のデフレが発生し、一方、給与の水準は11年目にかけて物価の水準にある程度収束していく。

なお、財政危機の発生が遅れれば遅れるほど、そのインパクトが大きくなるとうい考え方もあるが、ここでは、危機の規模は発生時期によらず同一とした。危機が遅れた分のリスクは、次の、またその次の世代の負担へと先延ばしされることを前提とした。 また、財政危機発生前は、物価上昇率と給与水準の上昇率は全期間に渡って一律プラス1.0%としている。また、消費税率は2016年度までは8%、2017年度以降は10%とし、所得税率は、現在の所得税法の規定に基づいて、給与の水準から推定される税率を使用している。

ところで、物価上昇率は、消費者物価指数(CPI)の前年度比と考えてもよいが、CPIは、昨今の円安局面では、生活実感よりもやや低めに出ているような気がする。従って、物価上昇率は、あまり指数にとらわれずに、生活実感に基づいたものとして捉えてよいだろう。そのように捉えると、シナリオで使用する物価上昇率プラス10%という高めの値も、急激な円安局面においては、それほど違和感のない数字であると考えられる。また、以下では、世間の平均的な給与収入(年収)の前年からの上昇率を「収入ベース上昇率」と呼ぶこととする。

図表1 シナリオ1の物価上昇率と収入ベース上昇率

図表2 シナリオ2の物価上昇率と収入ベース上昇率

 

■ モデル世帯

シミュレーションで使用するモデル世帯の概要は以下の通りである。

2015年度の末の時点で夫32歳、妻30歳、第一子2才。2016年度に第二子を出産予定。2015年度の初めに3500万円のマンションを購入(購入価格には諸経費および税金を含む。自己資金は700万円(購入価格の20%))。年間の基本生活費120万円、娯楽費36万円、保険料48万円、住宅諸経費48万円、その他支出12万円。子供の教育は、幼稚園から大学まで全て公立(仕送りなし)。夫の給与収入は500万円(将来の給与収入は米国型の賃金カーブに従って上昇する)、妻は主婦だが、第二子が小学生になる2023年度以降はパート等を行うことで給与収入が年130万円。2015年度の初めの資金残高(手元資金)は750万円。財政危機が発生しない場合の資金残高(図表3)は将来に渡って常にプラスを維持するものの、妻が働き始める直前の2022年度に34万円、教育費の支出が最大となる2035年に60万円となり、かろうじてプラスを維持した状態である。(詳細については、注に示したキャッシュフローレポートの「キャッシュフローの入力条件」を参照のこと)

 

図表3 財政危機発生前の資金残高(手元資金)の推移

 

■ シミュレーション結果

シミュレーションには、筆者が開発した「クライシスシミュレーション」を使用した。
シミュレーションでは、2016年度以降の25年間それぞれに対して財政危機シナリオを発生させた。ここでは、全ての年度での結果を見ることはできないので、資金不足の増加のスピードが速かった2020年度と2031年度の結果について見てみることにする。
図表4は、2020年度に財政危機が発生した場合に、将来の各年度の資金収支(収入から支出を引いた差額)がどれだけ変化したかをグラフで示したものである。資金収支の変化額は、給与の水準が長期的には物価の水準にある程度収束していくことを想定してシナリオを設定しているため、時間の経過と共に改善していく。ただし、シナリオ1で、2041年度以降は資金収支の変化額が(子供の教育終了により資金収支のプラス幅が大きくなる影響も加わって)プラスに転じるのに対して、シナリオ2では、増税による収支の悪化により、資金収支の変化額は大幅なマイナスを継続する(改善してもマイナス58万円止まりである)。シナリオ1では、危機発生後の初年度に63万円、2年目に91万円、3年目に97万円だけ資金収支が悪化している。一方、シナリオ2では、危機発生後の初年度に63万円、2年目に111万円、3年目に150万円だけ資金収支が悪化している。たったの3年間で、それぞれ合計で251万円、324万円も資金収支が悪化することを示している。

図表4 2020年度に財政危機が発生した場合の資金収支変化額の推移

 

図表5は、2020年度に財政危機が発生した場合の、将来の各年度の資金残高(手元資金)の推移をグラフで示したものである。最終的に、トータルでシナリオ1では620万円、シナリオ2では増税の影響も加わって1,649万円もの資金が不足する。資金不足が最大となる子供が大学に行く時期にかけて、新たな収入源を確保することが中長期的な課題となってくる。短期的には、危機発生後3年間で、シナリオ1では216万円、シナリオ2では289万円もの資金不足が発生する。もともと、妻が働き始める直前で資金残高が危機前ですら34万円しかなかった時期と重なるため、資金不足が大きくなってしまうのである。

図表5 2020年度に財政危機が発生した場合の資金残高の推移

 

図表6は、2031年度に財政危機が発生した場合に、将来の各年度の資金収支(収入から支出を引いた差額)がどれだけ変化したかをグラフで示したものである。2031年度は、子供の教育費の支出がこれから増えていく年であるため、2031年度以降の数年は、インフレによる支出の増加幅が大きくなりやすい時期である。シナリオ1では、危機発生後の初年度から5年目にかけて71万円、139万円、126万円、103万円、97万円だけ資金収支が悪化している。一方、シナリオ2では、危機発生後の初年度から5年目にかけて71万円、167万円、180万円、186万円、184万円だけ資金収支が悪化している。短期間(3年間)のうちにそれぞれ合計で336万円、418万円、また、たったの5年間で、それぞれ537万円、787万円も資金収支が悪化することになるのだ。

図表6 2031年度に財政危機が発生した場合の資金収支変化額の推移

 

図表7は、2031年度に財政危機が発生した場合の、将来の各年度の資金残高(手元資金)の推移をグラフで示したものである。両シナリオ共に資金収支の悪化の程度が大きいため、子供の大学のために貯めた資金(危機発生前では527万円)が、危機発生後2年目には枯渇し、そこからマイナスに転じることになる。そして、危機発生後たったの5年間で、シナリオ1では480万円、シナリオ2では739万円もの資金不足が発生する。短い期間に、ここまで不足額が膨らむと、新たな収入源を確保する前に万策尽きてしまうこともあり得るだろう。

図表7 2031年度に財政危機が発生した場合の資金残高の推移

 

図表8は、シナリオ1(財政構造改革断行、増税なし)の財政危機が発生した場合の発生年度別の資金不足額を示したものである。上グラフは危機発生後の最大の資金不足額、下グラフは危機発生後の期間別の資金不足額を表したものである。

まず、上グラフから、子供が大学に入る前の2030年度までに財政危機が発生した場合、ピーク時で600万円から700万円の資金不足に陥ることが分かる。これらの資金不足のピークは、危機発生年度とは無関係に、子供2人の大学生の期間が重なって支出額が最大となる2035年度に発生する。従って、2035年度にかけて、何らかの方法で600万円から700万円の追加資金を確保しなければならないことが分かる。

次に、下グラフから、財政危機発生後の短期間(3年間)で資金不足が増加しやすい時期は、妻が働き始めるまでの期間(2022年度まで)と第一子が大学に通う期間(2033年度から2035年度まで)であることが分かる。2020年度に財政危機が発生した場合、資金不足額は216万円に、2033年度に財政危機が発生した場合、資金不足額は299万円まで拡大する。また、第一子が大学に通い始める直前の2031年度に財政危機が発生した場合、5年間のうちに資金の不足額が480万円まで拡大する。

図表8 シナリオ1の財政危機発生年度別の資金不足額
(上グラフ:最大、下グラフ:危機発生後期間別)

 

図表9は、シナリオ2(現状維持、増税あり)の財政危機が発生した場合の発生年度別の資金不足額を示したものである。上グラフは危機発生後の最大の資金不足額、下グラフは危機発生後の期間別の資金不足額を表したものである。

まず、上グラフから、増税の影響により、財政危機が早まれば早まるほど不足金額が増加するということである。2016年度に財政危機が発生した場合、ピーク時で1,879万円の資金不足が発生する。資金不足のピークは、危機発生年度とは無関係に、第二子が大学を卒業する2038年度である。従って、2038年度にかけて、何らかの方法で最大で1879万円の追加資金を確保しなければならないことが分かる。

次に、下グラフから、財政危機発生後の短期間(3年間)で資金不足が増加しやすい時期は、妻が働き始めるまでの期間(2022年度まで)と子供が大学に通い始める前々年度から第二子が大学2年生になる期間(2030年度から2036年度)であることが分かる。2020年度に財政危機が発生した場合、資金不足額は289万円に、2033年度に財政危機が発生した場合、資金不足額は393万円まで拡大する。また、第一子が大学に通い始める直前の2031年度に財政危機が発生した場合、5年間のうちに資金の不足額が739万円まで拡大する。

図表9 シナリオ2の財政危機発生年度別の資金不足額
(上グラフ:最大、下グラフ:危機発生後期間別)

 

最後にシミュレーションの結果を簡単にまとめておく。モデル世帯について、シナリオ1(財政構造改革断行、増税なし)の財政危機が発生した場合、次のような結論が得られた。

  1. 子育て期間中に財政危機が発生した場合、増税が行われないにもかかわらず、600万円から700万円程度の資金不足が発生する。資金不足は子供2人の大学生の期間が重なって支出額が最大となる2035年度にピークを迎えるため、2035年度にかけて、新たな収入源を確保しなければいけない。
  2. 資金不足の増加のスピードが速い期間は、妻が働き始めるまでの期間(2022年度まで)と第一子が大学に通う期間(2033年度から2035年度まで)である。これらの期間ではそれぞれ、危機発生から短期間(3年間)のうちに資金の不足額が216万円、299万円まで拡大する。また、子供が大学に通い始める直前の2031年度に財政危機が発生した場合、5年間のうちに資金の不足額が480万円まで拡大する。

次に、シナリオ2(現状維持、増税あり)の財政危機が発生した場合、次のような結論が得られた。

  1. 財政危機が早まれば早まるほど増税の影響が強まり、最大で1,879万円の資金不足が発生する。資金不足は第二子が大学を卒業する2038年度にピークを迎えるため、2038年度にかけて、新たな収入源を確保しなければいけない。
  2. 資金不足の増加のスピードが速い時期は、妻が働き始めるまでの期間(2022年度まで)と子供が大学に通い始める前々年度から第二子が大学2年生になる期間(2030年度から2036年度)である。これらの期間ではそれぞれ、危機発生から短期間(3年間)のうちに資金の不足額が289万円、393万円まで拡大する。また、第一子が大学に通い始める直前の2031年度に財政危機が発生した場合、5年間のうちに資金の不足額が739万円まで拡大する。

 

注) モデル世帯の詳細やキャッシュフローの計算結果、キャッシュフロー作成にあたっての前提事項や留意事項は、本コラムのために作成した以下の「クライシスシミュレーション」のキャッシュフローレポートを参照のこと。
シナリオ1 Column_20150530_1.pdf (481ページ、17.3MB)
シナリオ2 Column_20150530_2.pdf (481ページ、17.6MB)

 

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社会保障の財源のために増税することの意味を考える

本コラムにおいては、「社会保障の財源のため」に増税することの意味について考えてみる。今年の4月に消費税率が5%から8%まで上がった。増税するための目的はさまざまであるが、今回の消費税の増税は、増加し続ける社会保障費の財源の確保が主な目的である。筆者は、増税するのであれば、働く意欲や起業家精神を保ち経済の発展を促すために、所得税よりも消費税を増やす方向性には賛成である。しかし、その目的が増え続ける「社会保障の財源のため」、特に、子供以外の受給者に向けたものであれば、考えものである。

以下で具体的に示すが、今後繰り返されるであろう増税は、これから子供を育てる多くの世帯にとって負担が大きいため、家計に破壊的なダメージを与え、子供から教育の機会や家庭生活のゆとりを奪ってしまう可能性があるのだ。社会保障のためと言えば聞こえはいいが、実態は、子供につけを回しているだけである。「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉があるように、現在の福祉の水準を維持したいという善意が、将来、多くの子供の犠牲を生み出す結果を招くのである。

 

■ キャッシュフローを用いた消費税増税に関する検証

ここで、夫婦で子供が2人のモデル世帯について、今後、消費税率が「8%を継続」する場合「2014年度8%、2015年度10%、その後は3年、2年毎に3%、2%の上昇を繰り返し25%まで上昇」する場合の2つのシナリオを設定して、家計のキャッシュフロー(注)を検証することとする。

モデル世帯の概要

2014年度の末の時点で夫32歳、妻30歳、第一子2才。2015年度に第二子を出産予定。2014年度の初めに3000万円のマンションを購入(購入価格には諸経費および税金を含む。消費税相当分は150万円。自己資金は450万円(購入価格の15%))。年間の基本生活費120万円、娯楽費36万円、保険料48万円、住宅諸経費48万円、その他支出24万円。子供の教育は、幼稚園から大学まで全て公立(仕送りなし)。夫の給与収入は500万円前後で可処分所得は年400万円(ただし、住宅ローン控除期間に限り当初5年は425万円、その後5年は420万円。将来の昇給は考慮しない。)、妻は主婦だが、第二子が小学生になる2022年度以降はパート等を行うことで可処分所得は年108万円。臨時的収入として子供が中学卒業まで児童手当あり。2014年度の初めの資金残高(手元資金)は450万円。

 

まず、図表1のモデル世帯の支出・収入の推移(消費税率が25%まで上昇する場合)を見て、支出および収入の今後の推移をイメージして欲しい。棒グラフは支出を、背面の面グラフは収入を表す。子供を育てる世帯の一般的な特徴は、子供が成長するに従って、子供が大学を卒業するまで教育費(黄色)が増加していくことである。消費税率が25%まで上昇する場合、第一子が大学に入学する2031年度に844万円、第二子が大学に入学して二人の子供の大学が重なる2034年度には953万円の資金が必要となる。早い段階からの貯蓄を怠ったり、頭金がいらないなどの理由で無理な住宅ローンを組んだりすると、将来、家計が回らなくなることが容易に想像できるだろう。

 

図表2は、モデル世帯が各年度末時点までに累計でどれだけの消費税を支払ったかを表したものである。まず、最初に目に付くのは、その金額の大きさだろう。作成したキャッシュフローの最終年度である2044年度では、消費税率8%を継続する場合ですら836万円、消費税率を25%まで上げた場合では1,921万円もの消費税の支払いが発生する。次に、消費税率が8%から25%まで上昇することによる支払の増加分は、第一子が大学に入る段階で467万円(1,012万円-545万円)、第二子が大学に入る段階で667万円(1,306万円-639万円)となる。これらは1人分の大学の在学費用に相当する金額である。消費税率の上昇で予定よりも支出が増えて家計が逼迫した場合は、不足分の資金を何らかの方法で工面しなければならなくなり、状況によっては、子供の進学を諦めざるをえないといった事態も起こりうるだろう。

 

図表3は、モデル世帯の資金残高(手元資金)の推移を比較したものである。資金残高(手元資金)とは、必要なときにすぐに使えるお金を表しており、これがマイナスになると家計が破綻することを表している。

まずは、消費税率8%を継続する場合から見てみる。住宅購入後は、手元資金は100万円以下で推移し、2021年度には35万円まで減る。しかし、妻のパート等の収入の助けもあって2022年度以降は増加に転じ、2030年度に568万円まで回復する。2031年度に第一子が大学に進学、2034年度に第二子が大学に進学するが、資金の蓄えのおかげでどうにか手元資金30万円を残してこの時期を乗り切る。消費税率8%を継続する場合は、モデル世帯は支出を減らしたり収入を増したりすることなく手元資金のプラスを維持し、予定通り子供の教育費のやり繰りに成功している。

次に、消費税率が25%まで上昇する場合を見てみる。住宅購入後の数年は手元資金がプラスで推移していたが、予定しない消費税率の上昇によって、2020年度から手元資金が不足してくる。収入を増やすため、例えば、妻が、第二子が幼稚園に通っている時間にパートに行くとしよう。この時間は、今までは家事を行い、子供の学校行事に参加し、また、一日のうちで唯一の息抜きのときでもあった。しかし、これからは子供のいる時間に家事などを行わなければならなくなるため、子供に向きあう余裕がなくなってくるかもしれない。一方で、支出を減らすため、例えば、娯楽費を削ることにしよう。年に1回の家族旅行、数年間は我慢することになるかもしれない。その後、家計は一旦回復する。しかし、2031年度に大きな危機が訪れる。第一子が大学に入学する年に資金が不足し始めるのだ。状況は悪化し、2034年度の第二子の大学の年には資金の不足額は677万円。そして、2037年度には不足額が739万円まで悪化する。ここまで深刻になると、妻が収入の高い仕事につくか、最悪の場合、子供の大学進学を諦めざるをえないといった事態も起こりうる。このように苦しい状況になると、家庭が上手く行かなくなることも少なくない。夫婦喧嘩が増えるかもしれないし、極端な場合は、離婚の引き金になってしまうこともあるかもしれない。そして、最終的に子供が一番の犠牲者になっていく。

このように、消費税率が8%から25%まで上昇することで、モデル世帯の家計や家庭環境は大きく変化する。実は、このような変化はモデル世帯に限ったことではない。多かれ少なかれこれから子供を育てる世帯に将来起こりうる現実なのだ。(なお、教育ローンや奨学金などにより、キャッシュフローが改善できる場合もあるが、今回の議論においてはあまり本質的なことではないためふれないこととする。)

 

■ おわりに

以上で述べたように、今後繰り返されるであろう増税は、これから子供を育てる多くの世帯に破壊的なダメージを与え、子供から教育の機会や家庭生活のゆとりを奪ってしまう可能性がある。社会保障のためと言えば聞こえはいいが、実態は、子供につけを回しているだけである。確かに、将来の世代に負担かけずにみんなが安心して生活できるようにと、政府は産業の競争力を高めるといった施策を行っているのも確かである。しかし、その競争力は人材が基本であり、人材が育つことが大前提である。

社会保障のような社会主義的な制度の多くは、もともとは善意によって作られたものである。しかし、それが時代と共に硬直化し社会の変化に適応できなくなると、最終的に社会を破壊していくこともあるのである。「社会保障の財源のために」と言えば聞こえはいいが、そのための増税がこれから子供を育てる世帯に多くの負担を強いることになる。このことを踏まえた上で、子孫繁栄のために社会保障がどのようにあるべきかを考え直す必要があるだろう。

 

注)キャッシュフローの作成においては、消費税率上昇による物価上昇分は所得に反映されないことを大前提とする。モデル世帯の詳細やキャッシュフローの計算結果、キャッシュフロー作成にあたっての前提事項や留意事項は、本コラムのために作成した以下の「資金残高キャッシュフロー」のレポートを参照のこと。
消費税率8%を継続する場合 Column_20140503_1.pdf
消費税率が25%まで上昇する場合 Column_20140503_2.pdf

 

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米国型給与カーブを使用したキャッシュフロー作成のすすめ

バブル崩壊以降年功序列型の給与システムが見直され能力主義型に変わってきていると言われることが多い。これは、バブル崩壊の後遺症といった国内要因のみならず、情報技術の進歩等によるグローバリズムの急激な進展や国際競争の激化などが影響していると考えられる。 このような状況においては、家計のキャッシュフローを作成する際に現時点の日本の給与カーブをもとに将来の給与収入を予測するだけでなく、より競争主義、市場主義が強い米国の給与カーブを使用して将来の給与収入を予測することが必要になってくると考えられる。本稿では、日本型に加えて米国型の給与カーブを使用したキャッシュフローを作成することが家計の安定性を高める上で大変必要であることを具体例を用いて示す。

 

給与カーブの検証

最初に、最近の給与カーブにはどのような傾向があるかを検証する。図表1は、日本型の給与カーブの2000年、2003年、2006年の結果 、米国型の給与カーブの2006年の結果を重ねて表示したものである。ここで、給与カーブの作成には、日本型については厚生労働省が発表している賃金構造基本統計、米国型についてはU.S. Department of Laborが発表しているCurrent Population Surveyを使用した。また、日本型の給与カーブの2000年、2003年の結果については消費者物価指数(生鮮食品を除く)を用いて金額の調整を加えている。さらに、米国型の給与カーブについては、25歳時点の金額が日本型と一致するように便宜的に表示しているため、その金額の大小は重要ではなく、給与カーブの傾きが重要であることに留意が必要である。

図表1を見て分かることは、30代以下の給与カーブの勾配が緩やかになり、徐々に米国型の給与カーブに接近する傾向にあることである。年功序列型の給与システムが見直され能力主義型に変わってきていると言われるが、確かにその傾向が30代以下の世代の給与収入に表れていることが分かる。ところで、40代前半の給与が若干増加傾向にあるが、名目の金額にはそれほど変化はなく、デフレの分だけ実質給与が上昇したようである。

図表1 給与カーブの比較

 

具体例

次に、具体的に年齢30歳で現在の給与収入が420万円(年末を基準)のケースについて日本型給与カーブと米国型給与カーブで今後30年間の給与収入がどのようになるかを示したのが図表2である。ここで、今年の物価上昇率は0%、来年は0.5%、再来年は1.0%、それ以降は1.5%とし、この物価上昇率に相当する分が1年遅れで無条件に給与収入に反映されるとして、同時に給与カーブによる調整を加えることで将来の給与収入を計算している。また、差額は米国型給与カーブで計算された金額から日本型給与カーブで計算された金額を引いたものである。

図表2 年齢30歳で現在の給与収入が420万円の場合の今後30年間の給与収入の推移(単位:万円)

図表2から分かるように、米国型の場合、ちょうど子育てと重なる40代から50代前半までの時期に100万円前後給与収入が少ないことが分かる。また、合計額で比較すると2,000万円近く米国型の方が給与収入が少ない。これだけ将来の給与収入に差があることからしても、日本型の給与カーブと共に米国型の給与カーブを使用したキャッシュフローを作成しておくことが重要であることが分かる。

 

おわりに

将来の給与収入が完全に米国型となっていくかという点については、文化的、慣習的な違いなどによって、必ずしもそうとも言えないかもしれない。例えば、言葉一つとっても敬語があるように序列的な側面は残っていくだろう。また、製造業などにおいては年功的な給与自体が生産性を反映したものと考えれられる場合もある。 ただし、産業の情報化やグローバル化、多額の公的債務で競争主義的な政策となりやすいことなどを考えると長期的には米国型の給与体系に徐々に接近する可能性があり、日本型に加えて米国型の給与カーブを使用した分析を行うことが家計の破綻回避において大変有効であると考えられる。

 

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毎年キャッシュフローを作成する-家計版ポートフォリオインシュアランス

破綻回避を第一の目的としながら超過収益の獲得を目指す投資戦略に、毎年の初めに将来のキャッシュフローを作成し、将来に渡っての資金残高が常に一定の金額以上であればその年の投資を行い、そうでない場合はその年の投資は控えるという方法がある。この投資戦略を用いることで、将来予定する支出が行えなくなる可能性、すなわち、破綻確率を一定以下に抑えながら、投資による超過収益も狙っていくことが可能となる。本稿では、具体例を用いながら、このキャッシュフローを用いた投資戦略が家計の破綻回避に大変有効であることを示す。

 

具体例

まず、将来に渡って資金残高が250万円以上のモデル世帯を設定する。(細かい家族情報等の条件は省略する)そして、資金残高の将来に渡っての推移を示したのが図表1である。

図表1 資金残高の推移

 

次に、以下の2つの投資戦略(図表2)についてどちらが優位かの分析を行う。なお、この分析には、筆者が開発したインベストメントスキャニングを使用した。

図表2 投資戦略

 

図表3と図表4は、モデル世帯について、年初の資金残高に対する投資比率を10%から50%まで10%ずつ増やした場合の破綻確率と期待超過収益額2を比較したものである。

図表3 破綻確率の比較

図表4 期待超過収益額の比較

 

図表3を見て分かることは、キャッシュフローを作成する投資戦略を採用することで破綻確率を下げることが可能になることである。特に投資比率が高い場合は破綻確率の減少幅が大きい。すなわち、将来に渡って資金残高が100万円以上を維持できないと判断した場合は、全てのポジションをクローズしその年の投資を控えることで、将来の支出が行えなくなる可能性、すなわち、破綻確率を大幅に下げることに成功しているのである。

次に、図表4を見て分かることは、キャッシュフローを作成した方が全体的に期待超過収益額が若干小さい金額となっている。これは、破綻確率を下げるための代償として超過収益が減少したと考えることができる。

これらから、キャッシュフローを作成する投資戦略によって、若干の期待的な超過収益を失うものの、その代わりに破綻確率を低く抑え、破綻回避的な投資が可能となることが分かる。

 

おわりに

投資の分野では、ポートフォリオの価値をあらかじめ定めた一定水準以上に保つための手法を一般的にポートフォリオインシュアランスと呼ぶ。そして、これを実現する手法の一つに、ポートフォリオの価値が低下している時はリスク資産を減らし、逆に儲かっている時はリスク資産を増やすというものがある。今回のようにキャッシュフローを投資判断に利用した方が破綻確率が低下しやすいのは、この投資戦略が支出や収入による収支も含めた家計の資金ポートフォリオに対する一種のポートフォリオインシュアランスの機能を果たしているからである。

ところで、キャッシュフローを利用した投資戦略は、ある年にリスク資産が大幅に下落し将来の資金残高がマイナスに近づいた場合は、家計が抱えている投資リスクを一旦全部吐き出し、損切りによって多額の損失を被る場合があることに留意する必要がある。そして、その後は投資リスクを負わない守りの時期に入り、次に投資を再開する、すなわち、攻めに転じるのは、予定していたよりも収入から支出を引いた収支が改善して将来の資金残高に余裕ができた場合や、子供の教育が終わるなどで資金繰りが厳しい時期を乗り越えた時期となるのである。

 

注1) ただし、年初の資金残高がマイナスの場合は、その年の資産運用は行わない。
注2) キャッシュフロー最終年の資金残高の投資による期待増加額。リスク資産の期待リターンには、リスク資産を含まない場合の運用利回り(ここでは物価上昇率を使用)に期待超過リターン3.0%を上乗せした率を使用した。

 

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